はじめまして!2022年1月から一般社団法人コード・フォー・ジャパン(Code for Japan) 研究員になった中窪です。本業は鹿児島県肝付町でDX推進を担当しつつ、総務省地域情報化アドバイザーとしても活動しています。
今回、桜が咲き誇る鹿児島から雪が降る北海道森町(もりまち)を訪問しました。少しですが、小規模自治体のリアルをレポートにすることで、同規模のまちが抱える共通の悩みや、今後のDXに向けた気づきをお届けできればと思います。
似て非なるまちとノリ
森町と肝付町はお互いに人口が1万5千人程度で面積が300平方キロメートルちょっと、予算規模が110億円程度と、数字の上では実に似たような規模の町です。その他、地形的には森町の噴火湾(内浦湾)とよく似た内之浦湾が肝付町にはあることも共通点としてあげられます。
ちなみに日本には1,700を超える自治体がありますが、そのうち半分以上となる900強もの自治体が人口3万人未満であるということを皆さんご存じでしょうか?
Code for Japan ではそのような比較的小規模な自治体のDX推進にフォーカスした、自治体のちょっと先の未来を探究する「越境自治体技術革新研究会」を立ち上げました。
研究会では仮想空間社会(いわゆるメタバース)でのコミュニケーションをベースに、それぞれの課題と取り組みを共有する活動と、それぞれの地域文化を通じた交流を行います。 ちなみに研究会には森町の他に福島県西会津町、滋賀県日野町、鹿児島県肝付町にご参加いただいていますが、2021年から始まった「デジタルの日」にノリでやったメタバース会議がきっかけとなっています。このイベントの後に、私も研究員としてCode for Japanに参画することになりました。

4年ぶりの森町と伝説のサーバールーム
鹿児島から北海道への直行便はなく森町までは7時間かかりますので、前日のうちに羽田空港を経由して函館空港から森町に向かうことにしましたが、想像以上に日本が縦に長いことを実感することができました。
翌日、鹿児島との気温差が思ったほどではないことに少し拍子抜けしつつ、ようやく森町役場に到着しました。個人的には4年ぶり2回目の訪問になりますが、前回の訪問時も冬季オリンピックの平昌オリンピックが開催されていたので、なんだか漫画のキャラクターの心境です。
役場に到着後、まずは町長と主要な役職の皆さんへ挨拶を済ませ、その後は森町の現状を主にITの取り組みについて総務課の水口さんと高橋さんから話を伺いました。
水口さんは森町の情報システムやネットワークの担当者です。森町ではこの規模の自治体には珍しく早くから仮想化技術やクラウドサービスを活用してきたことと、それらを長らく牽引してきたITスキルの高い職員が退職したことで、その後の運用については苦慮しながらも試行錯誤を繰り返しているとのことでした。自治体のセキュリティモデルでいうところのβモデルへの転換も検討しているようで、今後のネットワークの在り方やセキュリティ対策のトレンドと導入などについてディスカッションしました。
自治体が情報システムとネットワークに掛ける費用の目安としては自治体予算の1〜2%と言われています。ITへの投資が諸外国と比べて低い日本ですが、人口が減る時代にどのように予算を充てていくかは悩みどころです。さらにセキュリティ対策をどのように行うかによって、提供される行政サービスの運用方法が大きく変わることもありますから、その検討と判断は担当者にとって大きな負担となっています。情報システムとネットワークについては時代の流れと働き方に合わせた調達が課題となりますが、それぞれの自治体の取り組みを共有しやすい部分でもあると感じました。
なお、森町のサーバールームには知る人ぞ知る伝説の段ボール製空調システムがあるのですが、クーラーが古くなりサーバールームの排熱が課題となっていたそうです。普通は予算措置してクーラーを新しくしたり増強しますが、水口さんが工夫したことでサーバールームの吸気が効率化し、排熱処理が格段に向上したそうです。このあたりの予算がなくても「工夫してなんとかする」DIY精神は、私も見習いたいところです。
水口さんの話を聞いていると、周囲が何やら騒がしくなってきました。会議室を出てみると、町長室の前に内示を待つ長蛇の人の列ができていました。森町ではそれぞれの部署長に対して直接内示を伝えるという慣習があるそうで、肝付町との違いに妙に感心していましたが、そういえば水口さんが何かソワソワしているように感じたのはそのせいだと理解しました。(異動はありませんでした)

続いて、森町の自治体DXと地域DXについて行政改革担当の高橋さんからお話しを伺いました。
森町ではソフトバンクとのICT教育における事業連携協定をきっかけに町全体、暮らしも含めたDXにも取り組んでいるそうで、ソフトバンクの担当者を交えて地元の学校やお店との連携を軸にした取り組みについてディスカッションしました。
一方、自治体システムの標準化と手続きのオンライン化など、いわゆる自治体DXは「やらない」という選択肢はありません。業務の棚卸しやワークフローの見直しをしながら、対面による窓口の在り方を、オンラインも含めたハイブリッドな形へと考え直すプロセスは、どこの自治体でも行うことになります。自治体DXでプロジェクトを管理する立場としては、研究会により「事例や取り組みはもちろん、不安や悩みを共有し一緒に考える環境があることは心強い」という話になりました。現在、国を含めて自治体や職員同士がお互いに連携することでDXの波を越えようという動きが盛んになっていますので、様々なネットワークや繋がりを形成しながら地域を維持していくことが当たり前の社会になるんだろうと思います。

イカをデジタルでどう編むか
最後に森町ならではのデジタル活用について紹介します。森町には世界文化遺産登録された北海道・北東北の縄文遺跡群の関連資産として「鷲ノ木(わしのき)遺跡」があり、遺跡の管理と展示にデジタル活用を検討しています。詳細を伺うために、遺跡発掘調査事務所を訪問しました。
担当者によると今回の関連資産としての登録をきっかけに、森町と鷲ノ木遺跡を知ってもらうデジタルコンテンツをどのようなものにしたら良いか、また何で実現したらよいのか悩んでいるとのことでしたので、iPhoneやiPadを使った点群データの取得や、写真から3Dのモデリングが出来る技術の活用についてディスカッションしました。
この鷲ノ木遺跡では「イカ」の形をした土器が発掘されています。
森町といえば「いかめし」が全国的に有名です。その「いかめし」の町の遺跡から「イカ」の土器が出てくるなんて余りにも出来すぎていて冗談のようですが、遥か古代からのイカ愛を伝える奇跡でしかないと思うので、もちろん観光素材としてもそうですが、何より森町に住む方々から愛される続けるシンボルとしての活躍を期待しております。

自治体がつながり、ともにつくるまちの未来
Code for Japan は「ともに考えともにつくる社会」をビジョンとして掲げていますが、それは一見、何か直接的なアドバイスや共同作業を行うようなイメージを持ちます。
私自身も森町を訪問するに当たり、為になることやお手伝い出来ることを考えていましたが、実際に訪れてみると何が出来るわけでもなく手を動かすことなど全くありませんでした。逆に、そこに住む方の思いと悩みを傾聴することと、異なる暮らしがあることを実感することで自分の住む町のことを考えることに繋がりました。
もちろん、Code for Japan では自治体に対して直接的なアドバイスや共同での作業も行っていますので、それはそれでご相談いただければと思いますが、自治体職員が他のまちの人や暮らしを知ることで自分たちのまちを考えるきっかけを生み出すHUBとしての役割をより充実していきたいと思いました。
アフリカには「早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け」ということわざがあるそうですが、4月に岐阜で開催されたシビックテックのブリゲードミートアップと同様に、自治体同士が繋がり共有し合うイメージは、これからの社会変化に地域が対応していくための良いヒントになりそうです。
DXが国全体の取り組みとして注目されている今、多くの人が様々な役割で自治体に関わりそれぞれにDXを描いています。それはとても良いことだと思いますし、インフラサービスとしての行政の変容が目的なので、私も自治体職員として、そしてCode for Japanの研究員として、森町の様に地域でDXに主体的に取り組む担当者の姿や事例を、全国の小規模自治体が広く共有しあうための活動をしたいと思います。